top of page

  『木漏れ日の中で』

 
 

 


 


 ゲド率いる十二小隊と行動を共にしているアイラは、木漏れ日の中、街中に植えてある木を見上げていた。
そよそよと風が吹き、木漏れ日も僅かに揺れる。

「…あいつ、確かこの前木の上で寝てた、よな…」

そよ風が彼女の周りで遊んでは過ぎ去っていく。
木を見上げたまま暫く考えた後、アイラは行動を起こした。

「…ん?」

  クイーンは周りを見渡すが、目的の人物が見当たらない。
近い位置に座っているジャックとゲド、少し遠い位置に何やら言い合いをしているエースとジョーカー。
十二小隊メンバーは揃っているが、アイラの姿がない。
一番近くに居り、尚且つこの中だと一番アイラと気が合うであろうジャックに声をかけた。

「ジャック、あんたアイラがどこにいるか知ってるかい?」

声をかけられた方を向くと、彼は首を横に振った。

「……いや、おれは知らない。探して、くるか…?」

「本当かい?じゃあお願いするよ」

その提案に頷き、ジャックを送り出してから思い出した。
彼はマイペースだということを。

「いやぁ、ちょっと間違いだったかねえ…」

時間が経っても戻ってこなかったら自分が行くしかないかと、クイーンは軽くため息をついた。

 アイラを探しに出たジャックは、色々と目ぼしいと思われる場所を歩き回る。
人に聞いてみる、という手段を選ばないところが彼らしい。
歩き回ってみたものの、探し人は見つからない。仕方がなく一度戻ろうとした時、彼にとって寝心地の良さそうな木を見つけた。見つけてしまった。
探しに出る前の様子を考えても緊急性はなさそうであったし、直ぐに出発する雰囲気でもなかった為、少しくらいなら大丈夫だろうとその木へと足を向ける。
辿り着き、見上げると。

「あれ、ジャック?もう出発なのか?」

木漏れ日をその身に受けながら、探し人がその木の枝に座っていた。

「…いや、出発、ではない。それより…危ない…」

自分の事は棚に上げての台詞に、アイラは笑って枝の上で仁王立ちをする。

「はははは!おまえも登るじゃないか。それにわたしはカラヤの戦士だ!街の外だったら獲物が狙いやすそうだな」

ジャックは苦笑いを浮かべると、無言でアイラとは別の枝へと登り始めた。
結局何をしに来たのだろうと首をかしげているアイラをよそに、さすがの速さで登り終えてしまう。

「…ジャック?結局どうしたんだ?」

「……おれも、木に登りたかっただけだ…」

持ち前のマイペースさが発揮され、クイーンからのミッションは、彼の中ではなかったことになったようだ。
アイラは腑に落ちない表情を浮かべたが、ジャックだから…と、無理矢理納得することにして、枝に座りなおした。
二人とも話すことはなく、そよ風が葉を揺らす音と、下から聞こえる人々の声だけがその場を満たしていた。
決して不快ではない、むしろ心地の良い空間が広がっていた。

 アイラの捜索をジャックに頼んでから、かなりの時間が経過していた。
クイーンは額に手をあて、やっぱり間違いだったかと独りごちる。

「ゲド。ちょっとあの二人を探してくるよ」

「ああ、わかった」

隊長に声をかけると、二人を探すために外へ出る。
ジャックは手頃な木を見つけて寝てしまったのだろうと当たりをつけ、まずは彼から探すことにしたらしい。
合流してから聞き込みをしてアイラを探す予定のようだ。
大きめの木の下行っては見上げる作業が続く。
何度かその動作を繰り返していると、枝の上に人がいるのが確認できた。
しかも一人ではなく二人で、両方横になっており、眠っていると考えられる。

「あらあらあら、ミイラ取りがミイラ、かい」

確かにこの木の下は木漏れ日とそよ風で寝るのには最適かもしれない。
クイーンは微笑ましげに二人を見上げていたが、自分が二人を探しに来たことを思い出した。
二人一緒にいてくれて手間が省けたなと、すぅっと腹に息を吸い込む。

「ジャック、アイラ!さっさと起きな!戻るよ!」

呼ばれた二人は体を起こすと、同じタイミングでクイーンの方を向く。
そのあまりのシンクロぶりに、ジャックは軽く、アイラとクイーンは声を出して笑った。
危なげなく枝から降りた二人はクイーンに続いて歩き出し、三人は喧騒にまぎれていった。
 後にアイラはクイーンに語った。枝の上で寝るのはあまりお勧めしない、と。

 ざあっと一陣の風が吹いた。
――君たちなら大歓迎だよ。またいつでも、ここでお昼寝、していいからね――
聞こえることのない声が、街中に植えられたとある木から発されたことは、誰も知らない。

 

≪おまけ≫

「なあジャック。お前の武器も弓で、わたしと一緒だな!」

アイラは笑顔でジャックに話しかける。
話しかけられた彼は気まずげな様子で答えた。

「いや、これは、弓では…ない。ボウガン、だ」

「??矢を飛ばしてるんだ、同じだろう?」

にこにことしているアイラに負けたジャックは、訂正を諦めた。

「……そういうことに、しておこう…」

今日もジャックとアイラは平和です。

執筆者:楽歌

 二次創作小説が初なので、何かと至らない点が多いかと思いますが、ご容赦願います。詳しい時間軸や街は決めていませんので、ふわっと読んでいただけたら幸いです

bottom of page